作 やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説 筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】 Ｍボチャン第１章“１”
| Ｍボチャンの第１章 【１】【２】【目次】 |
そんなある日、あの男がやってきた。 日に焼けた顔に、少し縮れた髪の毛、 甲高い笑い声、自分のことを「Ｍぼちゃん」と呼ぶ男の明るさ 私は軽い目眩をおぼえた・・・。 男の監視は続いた。そして私への包囲網はさらに厳重になっていった。男の仲間が来たのだ。 日本人離れした顔だ。アラブ系の特徴である鷲鼻と、どっしりとした鼻かぶが、顔の真ん中で目をひく。鳶色の瞳を落ち着かせず、せわしなく動き回り情報を収集していた。 私が持っている男を計る尺度からは、まったく逸脱したタイプの、どちらかといえばラテンの軽さ、ランバダのリズムが似合う男であった。 すきっ歯から発せられる声の軽さと高さは、人に警戒心を起こさせないため特殊に訓練されたものであろうが、私にはむしろ警戒すべき人物であると思えた。 つづく
最初に訪ねた日より、店主の事が頭より離れない。たいした会話もしていないのに、「惚れたのか？」・・・まさか、私には男色の気は無い！その頃から私は、常にその店に居た。飽きることなく・・・いつの間にか私も常連と呼ばれるようになっていた。
自分のことを「Ｍぼちゃん」と呼ぶ男、奴を私は当初、「サーファーだろう」と、思っていた。しかし、それにしては、上半身が細い、波乗りには不向きなＯ脚だ。店主は、仲間と思っているようで、時折強い視線を感じる。外は夜の準備を始めだした。そろそろ、あの男がやって来る時間だ。
男は、計ったかの様にやってくる。そう、女学生で店がにぎあうこの時間に。男は軽いリズムで話しかける。 「君たち地学部、○○さん知っちょう？」 男の絶妙な話に女達は笑いころげる。 「見事だ！」私は思わず舌をまいた。 つづく
ランバダの似合うその男のコードネームは「Ｍ・ボ・チャン」といった。アラブ系の顔を持つその男の国籍は不明だった。コードネームからするとチャイニーズでのようだ。実際、謎の格闘技術を身につけていることは、その独特のO脚でうかがい知れた。 男は特別な任務を受けているのか、ハイスクールギャルを見かけると、こう訊ねるのだ。
「君たち、チガクブ？」
いったい何を意味する言葉なのか、私の手元にある乱数表をもってしても解読できなかった。 ランバダとバンダナの区別がつかない振りをするこの男の、底知れない不気味さに、恐れる日々が続いた。
つづく