作　やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説　筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】　Ｍボチャン第１章“２”

気がつけば、いつの間にか気力をなくし、平和ボケした日々が終わりを告げていた。店のカウンターに座り心地よい殺気に包まれているうちに
忘れかけていた緊張感がよみがえってきた。　「間合いを計れ！」　「油断するな！」　私は自分に言い聞かせた。開店して半年、第一幕目の役者も揃ってきた。
ダッチ浩一、「ダッチワイフの乳を揉んだ男」　
えらばずの栗、「場所、時間、人間関係、他，すべてを選ばない男」　
牛隈のケン、「真冬にパッチをはいて原付で来る男」　
そして謎の男［Ｍ・ぼちゃん」　それぞれの思惑が大きなうねりとなって、穏やかに暮らしていた店主を騒動の渦へと巻き込んでゆく。　つづく

作　梅太郎　　ハードボイルドソーセージ小説【外伝】

　虚勢を張る男は小さく見えるものだ。それを知っている男は時に卑屈とさえ思えるほど、自分を小さく見せたりする。　Ｍ・ボ・チャンは、男の値打ちが解る男だった。　ある日彼は、からまれている女性を助けた、と言った。　からんだ２人の男は、明らかにやくざだったという。　Ｍ・ボ・チャンの、射るような目が向けられたことに恐れをなして、男達は虚勢を張った。
「あんた、なん見ようとな！」
　そんな脅し文句に動じるＭ・ボ・チャンではない。
「よーと、覚えちょこうと、思うてね！！」
　やくざは返した。
「あー、よーと覚えちょきない。おらあ、Ｎちゅうもんたい」
　その場面を説明してくれるＭ・ボ・チャンの勇気に驚いたのは、なにも私だけではない。やーすけという男もそうだった。
「Ｎって、Ｎ組長のことですか？　ホントにそんなこと言ったんですか？」
と、驚愕の表情をつくった。　どうやらＭ・ボ・チャンとこの男は、仲間ではなかったらしい。
「組長〜〜ぉ？？」　素っ頓狂な声を出してＭ・ボ・チャンは黙った。　私たちを驚かせたことに戸惑っているのだ。
「いや、よく覚えておこうと思うてね、だったかな？」
　心なしか、ゆがんだ笑いを浮かべて言う。が、それでも驚きの表情を崩さない私たちを、ちらりと上目見て、
「よく、覚えておこうと思いまして、だったよ。間違えちゃった」
と言った。　自分を小さく見せようと言葉を選んだのだ。　恐るべき男だ、Ｍ・ボ・チャン！！　その日からひと月の間、街で彼の姿を見かけることはなかった。

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