作　やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説　筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】　いなぼーの章“２”

いなぼーの話をもう少ししよう。　どこから見ても半端者のこの男は、働く気持ちだけは一人前だった。　当時吉原町にはジャスコが建とうとしていた。　現場にはたくさんのアルバイト学生が作業員として働いていた。　その中に福助顔があった。　一日の作業が終わり、今日一日いかに自分がサボったかを自慢しながら、友達と２人で従業員用のエレベーターに乗った。　まさかというようなアクシデントを引き起こす人間は、そのような星の下に生まれたのだと思わせるくらい、感心するほど見舞われるのもだ。　いなぼーがそれだった。 つづく

　エレベーターに乗り込んだ２人は、密閉された空間にしばしの自由を感じた。　何をやっても怒られないという、子供じみた自由だ。　「えーくそ、早く動けっ」　と押しボタンを蹴り上げた。　それが原因なのかは定かではないが、降下していたエレベーターが突如止まってしまった。　いくらボタンを押してもウンともスンともいわなくなったのだ。　すぐにも誰か来るだろうと高をくくっていたこの２人を、恐怖のパニックが襲うまでまで、そう時間はかからなかった。　つづく

　同レベルの頭脳を持ったこの２人が考えたのは、酸素の問題だった。　確かにエレベーターは密室である。密室ではあるが、密閉はされていない。　この部分をどうやら混同したらしい。「おい、このまま動かなかったら、酸素がなくなるかもしれん！」 「え〜〜！！　ホントか？　どうするぅ？」　「誰かが来るまで、空気がなくならないよう、少しずつ息をすることにしよ」　「そやね、それがいい」　２人は床に座って、少し空気を吸っては止め、吸っては止めるという、変則呼吸を始めた。　　　　つづく

「なんだか、苦しくなってきた。空気が無くなり始めたぞ」　「誰か、誰か！　たすけてー」　「大声出すな！　ますます空気が無くなるやろ！？」　そんなやり取りが３０分も続いただろうか、突如、唸りを上げてエレベーターが動き出した。　「やったー、助かった」　こうして２人は死の淵からからくも生還したのだった。　この話をいなぼーは、オーバーアクションといえる仕草で話してくれた。　「ホントに苦しかったんですよぉ」　（そりゃ、少ししか息をしなかったら、誰でも苦しいぞ。いなぼー）と、心の中で私は、優しく言って聞かせてあげたのだった。　つづく

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