作 やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説 筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】 やたろうの章”２”
| やたろうの章 【１】【２】【３】【４】【目次】 |
グルメブームの火種は、イギリスのティータイムのスタイルを真似するところから始まって、本格的なフランス料理で火が点いた。 と同時に女性の感性が変質した。 それまでの手軽なナンパスタイルでは馬鹿にされるという、Ｍボチャンや牛隈の賢にとって恐るべき時代が到来したのである。 つまり「イカす男はかくあるべき」という女性のニーズにこたえんがため、日夜、血と汗と涙に濡れる努力が、愛の狩人達に求められる時代が来た、ということだった。 つづく
繊細な神経を持った薩摩隼人やたろうは、Ｍボチャン達のような、これまでのナンパのスタイルを苦手としていた。苦手ではあったが、男であれば誰しもがそうであるように、女にモテたかった。 やたろうは密かにそのチャンスを狙っていた。 そしてついにその時がきた。 やたろうは動いた。 これまで蓄積してきたモテモテ情報を、徹底的に分析した。 紆余曲折の結果、やたろうはついに完全無敵のキーワードを導き出したのである。 ――モテモテになるには、グルメが一番！ つづく
モテモテのキーワードを解析したやたろうは、すぐに壁にぶつかった。 行く手を阻む巨大な壁だ。 ――グルメ。 この分かったようで訳の分からない単語。 分からないながらも、美味しそうな音の響き。 グリルに通じているようでもあるし、ヒラメにも近い。 そしてなにより、お金がかかりそうな、つんとスマした感じ。 比較的安価なアメリカナイズなら自信はあったが、使い古されてしまっていた。 ――ヨーロッパ、それもフランスを知らねばならない。 モテモテまでの余りに遠い道のりに、やたろうは軽いめまいを覚えた。 つづく