作 やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説 筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】 やたろうの章”３”
| やたろうの章 【１】【２】【３】【４】 |
やたろうは吉田拓郎の「イメージの歌」風に考えた。 ――さて、グルメとは一体なんだろう。その答えは人それぞれで違うだろう。たどひとつ、これだけは言えるだろう。私には手持ちのお金が少ない。ポケットには数える程の小銭しか残ってない。グルメになる程の貯金を持たない。だけど時間は沢山持ってる。腐るほどの時間が私にはある。有り余るほどの時間を私は持ってる。人にあげても、まだ余りあるほどの……。
そこまで考えが巡ると、まるで一休さんのように、やたろうの頭の中で木魚の音が鳴り始めた。 つづく
陸｛おか｝サーファーというのがある。 サーフィンができなくても、知識とファッションでモテモテを狙う男達をいう。 中には、車の上にボードをボルト止めしている猛者もいた。 やたろうは、このファイティングスピリットを学ばねばならないと考えた。――ブルメも知識で何とかなる。要はモテモテになればいいのだ。基本は単語だ…。 その日からやたろうは、グルメ用語を盛んに詰め込んでいった。 あるとき、ムニエルとかマリネにまぎれて、まったく意味不明の単語を発見した。『ソムリエ』 いったいなんのことだ！ つづく
やたろうはこのとき、大きな過ちを犯した。悔やんでも悔やみきれない過ち……。 パチンコで負けたときに「あー、行かなきゃよかった。やらなきゃよかった」と悔やむあれとおなじだった。 『ソムリエ』をムニエルなどと、同じ種類のものと判断したやたろうは、ついに実戦を決断した。 ある日彼は、私に向かってゆっくりとした口調で、静かにこう言った。 「村長さん、僕、今度フランス料理食べに行こうと思うんですよ」 「ほう、それはリッチな話やね」 やたろうは意を決したように、ひときわ大きく言い放った。「一番最初に食べようと思うのは『ソムリエ』ですね」 ――ぐあああああ……。 つづく