作 やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説 筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】 Ｍボチャン第２章“５”
| Ｍボチャンの第２章 【１】【２】【３】【４】【目次】 |
――こっちがてんじんひゃくどうこっちがやくど…… 途切れ途切れに聞こえるＭボチャンの祈りは、読経のようだ。イスラムの神、アッラーへ捧げる言葉は難解だ。 ――死ぬつもりか、Ｍボチャン……。 アクセルはさらに踏み込まれ、「点」の世界は我々を吸い寄せる。 そのときＭボチャンのワイフが言った。「この人本気よ」 なんという気丈な女性だ。愛する夫と運命を共にする気だ。 ――さらば青春…… 私は死の覚悟を言葉にした。 つづく
私はミミスケ（化け耳の男）の結婚式に向かっている。 そしてそこには懐かしい男達の顔が、笑顔で待っているはずだ。 だが私の運命のベクトルは死に向かって、急速に増大している。 ――私が生き残れたら、冗談交じりに無事を祝って、肩を抱き合おう。もし数秒先で口を開けている地獄の門を、私がくぐってしまったら、そこでお前達を待っている。それまで、さよなら……。 Ｍボチャンの祈りは続いていた。 つづく
突如Ｍボチャンのワイフが「この人本気で言いよるよ」 と大声で笑った。 恐怖が正気の限界を超えたのか、ワイフはＭボチャンを指さして、狂ったように笑っている。 戸惑った視線をＭボチャンがルームミラーに投げた。 ――何が起こったんだ？ 私は夫婦の間で瞬時にかわされた情報が理解できない。 もう一度彼女が言った。「この人、ひゃくどうとか言いよるばい」 私はピントきて、前方の標識を見た。『天神 百道方面』 祈りの言葉と思ったＭボチャンの読経はこれだったのか……。 ――あれは『ももち』と読むんだよ、Ｍボチャン。 つづく