作 やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説 筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】 Ｍボチャン第２章“４”
| Ｍボチャンの第２章 【１】【２】【３】【４】【５】【目次】 |
そのときＭボチャンが声を上げた。「高速ぐらい走りきる！」 「そしたら問題ないやん」 即座に私はＭボチャンの決断を促した。 Ｍボチャンは黙り込んだ。手にはしっかりとハンドルが握られている。 都市高のインターチェンジが迫ってきた。時間がない。「なんが問題なん？」 私の語気が少々荒くなった。観念したようにＭボチャンは 「どこで降りたらいいか、わからん……」 消え入るような声だ。こういうセリフにも哀愁を感じさせるところはさすがだ。 私はポンとＭボチャンの肩を叩き、「天神で降りりゃよか」とささやいたのだった。 つづく
都市高に上がる決断を下したＭボチャンは、中東の空を思い出していた。
――この緊張感が懐かしい。コックピットが海の匂いで満たされた艦上戦闘機…… ブライダルケーブルが機体に装着され、軽い振動がコックピットに伝わる…… 僚機のエンジン音が腹に響いてくる…… 発艦士官の手が上がる…… 張りつめた神経…… 死ぬかも知れない、そう覚悟して舞い上がる空…… 空母の蒸気カタパルトが、３５トンの機体を、わずか２．５秒で時速２７０キロに加速させ、甲板から打ち出す――
料金所のゲートをくぐるとＭボチャンは、一気にアクセルを開けた。 つづく
――速度計は狂ったように回転し、ブースト計は一気にレッドゾーンへ飛び込む。 点となって視界に入ってくる標識を、正確に読み取るなんて並みの人間にはできっこない……。 だが特殊訓練を受けたＭボチャンにとって、それは容易い。 私は後ろへ飛んでゆく風景を見た。 ――ガードレールの外は海……。 接触すれば０，５ミリの鉄板なんか紙切れ同然…… ボロ切れのように落下していく、鉄の棺桶……。 俺達は筑豊生まれ…… 紙切れよりも薄い己の命…… 燃え尽きるまでわずか数秒……。
加速を続けるＭボチャンは、祈りの言葉をつぶやいた。 つづく