作　やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説　筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】　Ｔプリの章”１”

Ｔプリが本格的に思春期を迎えたのは高校の時だった。　恋愛に対して真剣だった彼は、セーラー服の女の子を遠くから見つめ、胸ときめかせている同級生の男どもの不甲斐なさに、苛立ちに似た不満を感じていた。　『もっとアクティブに恋の季節を謳歌しても良いんじゃないか──』　常々そう思っていたＴプリは、身をもって「アクティブな青春とはこうしたものだ！」という行動を起こした。　当時のＫ校は木造で、床板などは軋むものだという常識があった。　安物の板にはフシがつきもので、古い校舎の床板には無数フシがあった。　フシは乾燥すると硬い部分が抜け落ち、文字通り節穴になるのだ。　そしてもう一つ、古い校舎の共通点に、床が高く作られているという所が指摘できる。　湿気で建物が傷むことを避けるためだ。　床下はかなり高く、腰を屈めれば通れるような造りだった。　　つづく　　

さらに階段部分は箱状になっていて、かなりの空間があった。　Ｔプリは、休み時間になると女の子達は階段の踊り場で屯し、おしゃべりに夢中になる習性があることを突き止めた。　そしてその足下の床板は古く、数えただけでも数個の節穴が確認できる。　恋愛に真剣なＴプリが、これらの条件を見過ごすはずがない。　Ｔプリは決行を決意した。　その日、天候は快晴。　Ｔプリは自分の計画を一人の親友に打ち明け、彼にも楽しみを分けてあげようと思った。　親友はＴプリの厚い友情に涙を流して感謝した。　恋愛に真剣なＴプリは、男の友情をも裏切ることはなかった。　　つづく

床下はカビ臭く、犬のシッコの臭いが漂っていた。　勿論そんなことぐらいは覚悟の上のＴプリは、昼ご飯を食べ終わって女の子が屯する、階段の踊り場まで急いだ。　床下からは床上の間取りが全く分からない。　頭の中に建物の図面を思い浮かべ、目的の階段へと向かった。　頭のほんの真上を、喚声と走り回る足音が響く。　こうしてみると、床下に神経を払う者など皆無であろうと思える。　それほど人間にとって無防備な場所なのだ。　もしも自分が誰かを暗殺する仕事に、将来ついたとしたら今日のことは重要な参考事例にしようと、Ｔプリは思っていた。　ようやく階段らしき空間が見えてきた。　２人は細心の注意を払いながら、ポイントに近づく。　　つづく　

頭上で可愛らしい女の子の笑い声。　Ｔプリは節穴から差し込む光に目玉を合わせる。　友達は別の節穴に顔を近づけ、「あっ」と小さく声を上げた。　目を押さえているところを見ると、ゴミが入ったらしい。　その点、Ｔプリはさすがだった。　そんなこともあろうかと眼鏡を掛けてきたのだ。　どんなにゴミが落ちてこようと、眼鏡さえあれば目を開けっ放しに出来る。　Ｔプリはほくそ笑んだ。　「ふふふ……思った通りだ」　Ｔプリはヤモリのように床板に貼り付き、節穴を吟味していった。　そしてついに絶好の節穴を発見した。　窓際に一人の女の子が立ち、股を少し開いた状態で窓枠に背中を預けている。　節穴はその股の間に位置していたのだ。　Ｔプリは悦びの声を上げそうになった。　　つづく

その女の子は友達と窓に並ぶ形で立っていた。　もし彼女が外の景色を眺めていたら、Ｔプリの作戦は完璧となっていただろう。　だが、彼女は室内に視線を置いていた。　さらにその日は快晴で、昼の日差しが真上から差し込む時間だったことは、Ｔプリの計算に入っていなかった。　Ｔプリが床の節穴から覗いた時、差し込む日光でちょうど逆光になり、非常に見づらい状態だった。　日光はＴプリが覗いている節穴に、サンサンと光を降り注いでいたのだ。　何かの気配を感じたのか、なにげに彼女が視線を足下に落とした。　　つづく

視線の先に節穴があった。　その穴から見える床下の暗闇に、蠢くものがある。　さらに注意して見ていると、節穴に差し込んだ日光に反射して何かが光った。　『眼鏡だ！』　聡明な彼女は床下に誰かが潜んで、パンティーを覗き見ようとしていると理解した。　「きゃー、誰かおる！」　辺りは騒然となった。　その中の一人が職員室に駆け込んだ。　誰かが床下に入っていると告げた。　先生が駆けつけた。　騒ぎが大きくなった。　だがその時には、Ｔプリ等はすでに脱出していて、床下はもぬけの殻だった。　誰もその姿を見た者はいず、遺留品もない。　ただ犯人が眼鏡を掛けていたという、一人の女の子の証言だけが唯一の手がかりだった。　完全にＴプリの作戦勝ちに見えた。　　つづく

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