作　やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説　筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】　Ｔプリの章”８”

私達がボディースーツの対処法を研究していた時、もう一人の悩める子羊、Fシマが暗い顔をしてやってきた。　Fシマに彼女が出来たという話は訊いていた。　年下の早熟の高校生で、童貞だったFシマの筆おろしを請け負った猛者だ。　Fシマが始めてのキスをしようと、震える唇を突き出し、目を瞑った時、「首を傾けんと鼻が当たるやろ！」とどやされる始末。　そんなFシマがモーテルなる場所へ行った。　いくら早熟とはいえ、高校生である彼女はモーテルに入ったことがなかった。　大学生であるFシマにとって、車を持っているという事だけが、彼女より大人の部分である。　車といえばモーテルだ。　Fシマが彼女に対し、大人をアピールできる最強の舞台であった。　　つづく

モーテルの駐車場に車を突っ込んだFシマは、慣れた手つきでシャッターを下ろしに掛かった。　慣れた手つきというのは、モーテルに馴れているということではない。　童貞だったFシマにとってもモーテルは始めてである。　馴れているのはシャッターの下ろし方だ。　Fシマの自宅の駐車場には、シャッターが取り付けてあるのだ。　だがここでFシマに、大きな勘違いがあった。　モーテルのシャッターはスイッチ一発、自動で開閉する。　しかし、そんな代物を見たことがないＦシマは、自宅と同じ要領で、上がっているシャッターを引き下ろそうとしだした。　　つづく

何度も飛び上がってはシャッターにぶら下がり、ぶら下がっては弾みをつけて引き下ろす。　普通、この時点で手動であることを疑うのではないだろうか。　だが気持ちに余裕のないＦシマは「なんち固いシャッターやろか」とぼやきながら、３０分もの時間を費やし、ついに最期まで手動で引き下ろしてしまった。　この時点でＦシマのエネルギーは５０％を切っていた。　そしてコトを済ましての帰り、ふと壁を見ると「開閉」の文字が目に入った。　これでようやく自動であることに気づいたＦシマは、苦笑いしながらボタンを押した。　……動かない。　強引にシャッターを閉めたため、壊れてしまったのだ。　緊急事態発生であった。　　つづく

Ｆシマはヘトヘトだった。　３０分かけてシャッターを下ろした時は、この後に彼女との甘い蜜の時間が待っているという興奮で、脳内のアドネラリンやらドパーミンなどのホルモンが吹き出していたため、何とも感じなかったのだが、今は、持てるエネルギーのほとんどを放出してしまっている。　並みの男なら諦めて、従業員を呼ぶところだろう。　だが今度のＦシマには、シャッターを壊した『恐怖』という強い味方あった。　このままでは弁償させられるとの考えが、頭を過ぎった瞬間、モリモリと力が湧き、重量挙げのような姿勢でシャッターを押し上げた。　その姿はポパイかマイティー・マウスのようだったという。　私達がボディースーツ対処体操を行っている最中に、Ｆシマが来たのは、この事件の直後のことだったのだ。　　つづく

ボディースーツの『脱がせられない事件』といい、Ｆシマの『モーテルのシャッター壊し事件』といい、行き当たりばったりでは、ろくな事はないということを私達に教えてくれたのだった。　さて、ヤミの続き。　車の中で彼女を押し倒し、燃える口づけをくり返し、胸をまさぐった。　「イヤ」と小さく拒絶する彼女。　その仕草にますます燃え上がるヤミ。　狭い車の中で、頭やら腕やらを打ち、自由にならない。　その不自由さが、また良いのだ。　ヤミは興奮の階段を、一気に駆け上っていく。　その時、息苦しさに喘ぐように彼女が言った。　「なんか、焦げ臭くない？」　ヤミがその小さな耳元で答えた。　「二人が燃えようきたい」　　つづく　　

日頃の練習の成果が出た。　『決まった！』と思った。　一度は言ってみたいセリフを、こんなナイスな場面で使えたのも、日頃のから恋愛に対して真剣だからだ。　ヤミは自分の恰好良さに、軽い目眩を感じた。　「でも、本当に焦げ臭いよ」　怪訝そうな彼女の目が、下から見つめている。　何をムードのない事を言いよるかね──　ちょっとムカついたヤミの鼻腔を、異臭が刺激した。　「本当やが。何か燃えよる」と視線を左に向けた。　後部座席のシートから、なにやらモクモクと煙が上がっているではないか。　「あーーーー！」　ヤミは慌てて煙が発生している部分を叩いた。　コロコロと転がったのは、焼け残った煙草のフィルターだった。　さっき、疾走する車の窓から捨てた吸い殻が、風に飛ばされて後部座席に転がり込んだのだ。　ヤミは黒く焦げた、シートに残る煙草のあとを指で撫でた。　あれ程燃え上がったテンションが、シオシオシオと、音を立てて一気に下降するのが自分でも分かった。　『あの時、艶にせんじょかよかった』　後悔先に立たず、か──　と呟いてみた。　立たずという所がなんとなく可笑しくなって、ヤミは力無く笑った。　　つづく　

【0】もどる