作　やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説　筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】　Ｔプリの章”７”

目覚めたばかりの蒼き性は、後から考えると恥ずかしいとしか思えない言葉を、恋愛に真剣になった男達に使わせてしまうパワーを持っている。　特に車の中で口説く言葉は後で考えると、相当に恥ずかしい。　Ｔプリの仲間にヤミという男がいた。　ヤミは車に乗せた彼女に、大人の男を演出しようと考えた。　華麗なハンドリングをより華麗に見せるのは、余裕を漂わせるくわえ煙草。　左でハンドルを握り、右の親指と人差し指で煙草を摘み、窓の外でそれを弄びながら、思い出したようにくわえ煙草で紫煙をくゆらせる。　そしてその最期では、決して車内の灰皿で揉み消したりしない。　人差し指でピンと車外に弾き捨てる事で、大人の格好良さのすべてが完結する。　彼女がそれを「ステキ！」と思ったかどうか分からないが、少なくともヤミはそう思っていた。　つづく　

ヤミはかなりのスピードで車を走らせながら、煙草の吸いガラを指で弾いた。　ヤミがスピードを出すのにはワケがあった。　急いでいたからだ。　急ぐといっても、仕事が待っているとか、急用が出来たとか、そういった真っ当な理由ではない。　早く人気のないところへ車を走らせ、彼女を押し倒し、淫らな行為をしたいと考えてのことだ。　この衝動は特別に、彼だけが持ち合わせていたというわけではない。　女性を車に乗せた若い男の頭の中に、ムクムクと積乱雲のように湧くスケベ根性──　それがこの衝動の正体なのだ。　ただ、ナンパをパターン化し、自分のお気に入りの場所に車を走らせる男は、常習であるから気をつけなければならない。　もし、あなたが女性で、たとえばMボチャンにドライブに誘われ「久保白ダム」か「大将陣」に連れて行かれた経験があるとしたら、それはまさに、このナンパのパターンにはまってしまった事を意味するのである。　　つづく

ヤミは逸る気持ちを抑え、人気のないお気に入りの場所に車を止めた。　彼女の唇に噛みつく勢いで、ヤミが迫る。　そうしながらも右手で座席のレバーをまさぐり、押し倒す。　すべては何度もシミュレーションをくり返してきた段取りだ。　馬鹿馬鹿しいかもしれないが、二十歳前後の男達は、その瞬間の為に様々なパターンを予測して、練習したり、あるいは研究したりして密かに胸を躍らせているのだ。　私の修業時代（大学時代）、下着通で通っていたＮシマ君という男がいた。　授業が終わると彼の部屋に皆が集い、女性の下着について、学習に励む日々を重ねたものだ。　Ｎ君はブラウスに透けて見えるバックライン（ブラのヒモ）を見ただけで、メーカーを言い当てることが出来た。　フロント・ホックなる新商品がトリンプから出された頃のことだった。　　つづく

複雑かつ魅惑的な女性の下着に直面し、とまどうい迷う男達が、密かに彼の部屋のドアを叩いた。　その男はすがるような視線をＮシマ君に向け、言った。　「ボディースーツち、あるやん。あれ、どげんしても脱がしきらんやったんよ」　……男は童貞だった。　そして相手の女性も始めてであった。　その日、二人がどのようなデートコースを辿ったか分からないが、とにかく、その瞬間がやってきた。　興奮しきった男が、むしり取るように彼女の服を脱がせると、見たこともないような硬い衣装に突き当たった。　体型を理想の形に無理矢理改造する、上下切れ目のないボディースーツ。　男の目にはそれが自分を拒む、アルマジロの鎧に見えたという。　　つづく

男は鎧のようなボディースーツを、上から引き下ろして脱がそうと努力した。　それは大変な誤りだった。　上下繋がったボディースーツは、頭から被るように装着していき、最期に股の間にあるボタン、フック、マジックテープなどで固定されて完了する。　脱ぐ場合はその逆のコースを辿るわけだ。　つまり、ボディースーツを脱ぐためには、股の間の止め口を外さなくてはならない。　このやっかいな下着を装着してきた彼女は、当然、その手順を知っているはずだ。　しかし、処女である彼女にとって「股の下の、このフックを外して、それから上に引っ張り上げてちょうだい」などとは、恥ずかしくて言えたもんじゃない言葉だったろう。　その時の彼女は、懸命にボディースーツと格闘している男に、ただただ、なされるがままの状態で、思い出の時間を過ごしたのである。　　つづく　　

Nシマ君は、再びこのような悲劇が起こることを憂い、ボディースーツに直面した時の心得と、基本的な動きを、修行中の私達に指南することにした。　この下着を目の当たりにして慌てない動作、【その１】止めの部分の構造を指で探る。ボタンやマジックテープの場合は静かに外す。　もしフックの場合、ブラジャーと同じように、一旦親指と人差し指と中指を握るようにして外す。　【その２】外れた結合部分を前と後ろに分け、片膝を立て、如何にも力が入る姿勢を取る。　【その３】女性の体重に負けない姿勢が出来たら、バケツの水を撒くように、頭上に向かって一気に引き剥く。　少々乱暴なようでも、まごつけば雰囲気を壊し、最悪、お預けを喰らったり、さらには下手くその烙印を押され、友達に言いふらかされる羽目になる。　　つづく

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