作 やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説 筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】 ムクの章”６”
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だが時すでに遅し。 ムク達「そら豆」はステージを降りている。 それに正直言って「そら豆」の実力では、審査員をアッと言わせることはできないだろう。 だからこそ秘密兵器のチョッパーを炸裂させ、それが不発に終わり、一発逆転を狙ってのジミヘンも仕込み不足で不可能になった。グリコのガッツポーズで笑いは取ったが、そこに歓びはなく、むしろ屈辱的な敗北感だけを味わっている。 また笑い声が耳に届く。 こめかみのところがヒクついた。 背中からうなじにかけて、ちりちりとむず痒い。 吐き気がした。 口を開けた。 開けた口から絞り出すような声が飛び出た。「うおおおおおおおー」 と同時に声に反応して腕が振り上がり、何かを叩きつけた。 『バキッ』 「ア”ーーッ」 一瞬の出来事だった。ムクは無意識に、愛用のベースギターを床に叩きつけていたのだ。 「ア〜〜〜ッ」 ムクはもう一度叫んで、木っ端げたベースギターを目の前に持ってきて、見た。 「ア〜〜〜ッ」 ムクは様々な感情のこもった「ア〜〜〜ッ」を連発した。 結局「アッ」といったのは審査員ではなく、ムク本人であったことは、何とも気の毒な話であった。 つづく
あの悲惨な出来事から、ひと月が過ぎた。 ムクの心の傷は癒されたかにみえる。 がしかし、深い傷は些細な衝撃で、パックリと口を開け、再び赤い血を流したりする。 その痛みは、むき出しの神経をじわりじわりといたぶるような、あるいはハードパンチャーのパンチを、じん臓に喰らったような、苦しみを伴う痛みだ。 その日、店のカウンターでムクとののちゃんが、何か言い争っていた。 カウンターの端には、二人の話には、まったく興味なさそうなミミスケが、読書にふけっていた。 つづく
どちらかというと車に対して疎い｛うとい｝方だったムクも、近頃車を買った。 軽自動車並みながらも、なかなかカッコイイ「シティー」という車だ。 時代は「バブルの宴、１０秒前」といった時で、自動車産業は新しい技術を生み出しては、次々に新型を市場に送りだしていた。 特にエンジン部分は、いち早く低公害化に成功したホンダが、一歩リードしている。 そのエンジン名CVCCをとって「シビック」と名付けられた。 負けじとライバル社が開発したのはDOHCというエンジン。 革命的なエンジンであったのかどうか分からないが、このエンジンが搭載された車のボディーにはDOHCと書かれた、かなり大きなステッカーが貼られ、購入者は強制的に宣伝させられている。 いきおい、多くのヤングなメンズ達の間では、このDOHCとは何の略かということが話題になっていた。 つづく
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