作 やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説 筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】 ムクの章”９”
| ムクの章【１】【２】【３】【４】【５】【６】【７】【８】【９】【１０】【１１】【１２】【目次】 |
大ざっぱに言って、人には運のいい人と悪い人がいる。 ムクはどちらかというと、運の悪い方に入るのだろう。 それはトランプなどの、カードゲームをしてみるとよくわかる。 ２０年前のちろりん村では「水道管ゲーム」という、ババ抜きみたいなカードゲームが人々を熱くさせていた。 持ち込んだのはＭぼちゃんだった。 女子高生相手に他愛もない時間を過ごすことが、Ｍぼちゃんの楽しみでもあった。 それでも「はよして！ あたしコーフンしちょっちゃき」 と、エキサイトした女子高生の失言を引き出し、いたぶる事も忘れない。 やはりＭぼちゃんは遊びの天才なのだ。 遊び心は余裕のバロメーターといったところだろう。 運は余裕に引き寄せられる。 ムクに足りなかったのはこの「余裕」であった。 つづく
ムクが私に水道管ゲームを挑んできた。 「負けたらシッペね」 と自分から条件を出してきた。 用心深い人なら、一度相手の腕前を試してみてからにするのに、ムクは自分が負けるなど考えもしないらしい。 私の想像だが、おそらくアルバイトに入っていた、Eみ子という超可愛い女子高生に、いいところを見せたかったんだと思う。 私の腕をシッペで打ち据え、「もうヘタやねえ」 と言いながら、Eみ子と笑い合う……、そんなナイスミドルな風景を思い浮かべていたはずだ。 だがしかし、私は大学時代から、麻雀、手打ちのパチンコ、賭けオセロ、オイチョカブなど様々な修羅場をくぐってきた男。 勝負には手を抜かないのが、私の信条であることを、目尻を下げたムクは知らない。 つづく
勝負事に「女」という邪心入ると、たいがいの場合、最後の最後でどんでん返しを喰らう。 表面上、勝っているようで実は、相手の術中にはまっていることに気づかない。 顕著な例はオセロだ。 最終局面になると盤面上は、片方が圧勝しているかのように見える。 「わ〜〜、すご〜い〜」と、女性から声を上げられれば、一本調子に頑張ってしまうのは男の悲しい性だ。 この性を克服するためには、血の滲む精神修行がいる。 勝負途中の評価など気にしてはならない。 「へた〜〜」 などとあざ笑われようとも、決して言い訳をしてはならない。 『最後に笑うのは俺だ』 そう念じ続け、完膚無きまで叩きのめす事だけに、全神経を集中する。 まさにハードボイルドの世界……、男の人生劇場そのものなのだ。 いよいよ、どんでん返しの一枚を打つ瞬間、嬉しそうな顔をしてはいけない。 「意地悪な人」との印象を持たれ、女性に敬遠されるからだ。 更には、うち負かした相手に、女性の母性本能から来る同情心を、間抜けにも献上することになるだろう。 『出来ることならこんな事はしたくなかった。 すまねえ』 そんな気持ちが見て取れる表情をつくる事を、是非お勧めする。 男の哀愁とは、この一瞬絞り出た、一滴のエッセンスであると、私は断言する。 つづく
シッペ、あるいはデコピンにも熟練がいる。 鍛え上げられたデコピンを喰らうと、目を開けていられない状態に陥る。 さらにその衝撃で涙腺が緩み、不覚にも涙を落としたりする。 シッペにしても同じ事が言える。 熟練されたシッペは神経を破壊する。 私の修業時代、このてのシッペを喰らい、二日間手首の自由を失ってしまった。 「やられたら、やり返す」 私はまず、同じシッペや、デコピンに、なぜ痛みの格差が生じるのかを研究した。 様々な試行錯誤をくり返し、ついにその奥義に触れたのは高校生の時……。 それまでに、実に６年の歳月を必要としたのである。 つづく
ついに辿り着いたのは、二つの奥義！ ひとつは『筋の付け根を狙って、えぐり込むようにウツベシ』であった。 格闘技においても、鍛えようのない場所は関節といわれる。 もうひとつは『骨を狙って、ウツベシ』である。 デコピンでいえばデコの両側、平安の書き眉の部分。 ヒットした瞬間「カポッ」といった音色が響けばベスト！ シッペでは自分の指の堅い部分、指先、関節部分を有効に、相手の骨、筋の付け根にヒットできるよう、訓練する。 そして私が体得した正確にヒットさせるコツを、極秘ながら伝授する。 それは「絶対に目をつぶらない！」である。 このコツは、打撃系のあらゆるスポーツにも通じることなのだ。 つづく
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