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作　やーすけ・梅太郎
ハードボイルドソーセージ小説　筑豊残侠伝【ちろりん村人間模様】　かおすけの章”２”

かおすけにとって忌まわしいあの事件は、彼自身を変えた。　　「顔がデカイ奴」と言われても、笑って済ますようになった。　一皮むけて、器までデカくなったのだ。　そして「かおすけ」という、おそらく世界でただ一つのニックネームを、自分だけのブランドとして大事に育てていくことになる。　かおすけはプラス思考の男だった。　転んでもタダでは起きない奴、そう言い換えても良いだろう。　寒い冬のことだった。　夜も更けてきたとき、勉強中のかおすけは空腹感を覚えた。　台所に行って物色する。　目に止まった物は、カップ麺だった。　やかんに水を入れ、火をつける。　コタツに入ってカップ麺の蓋を開け、湯が沸くのを待つ。　やがて、激しく蒸気を吹き上げる音がし始めた。　かおすけはトレーナーにちゃんちゃんこを羽織った姿のまま、注ぎ口から吹き上げる水蒸気で、機関車のような帯を引きながら、やかんをコタツまで運んできた。　やかん内ではお湯が１００度まで達しているのだろう、沸騰する振動が取っ手に伝わってきた。　　つづく　　

飛沫をあげ、熱湯が勢いよくカップに注がれる。　定位置まで熱湯を注ぎ入れると、やかんを台所へ戻し、かおすけはカップの前に座った。　このまま大人しく食べていれば、日常を形づくる膨大な行動のひとつとして終わったはずだ。　何故そうなったのか、本人にさえも分からないタイミングで、熱湯入りのカップがひっくり返った。　零れたなどというなま生半可な状態ではなく、完全にひっくり返った。　しかも、かおすけの股間にカッポリと！　かおすけは悲鳴を上げ、立ち上がり様に着ているものを脱ごうとした。　その判断はこの状況において、最良だ。　しかし運の悪いことに、かおすけはジャージを履いていた。　ご存じの通り、ジャージが濡れると肌に張り付き、簡単には脱ぐことが出来なくなる。　股間をラーメンだらけにして悲鳴を上げるかおすけを、あざ笑うかのようなブルーのジャージは、かおすけのソレにピッタリと張り付き、容易には離れてくれなくなっていた。　　つづく　

白という色が落ちて、黄色くくすんだ古い病室の壁を、特別何か思考を巡らすという訳でもなく、かおすけは見つめていた。　ひと目で、何度も塗り重ねたとわかる、ペンキがまだらに剥げたベットの、鼠色の鉄パイプが、落ち込んだ気分を益々陰鬱なものにする。　二つあるベットの一つは無人で、哀れな次の患者を、冷たい表情で待っていた。　かおすけが大火傷を股間に負い、入院したのは近所の個人病院だった。　病院というにはおこがましいような、どちらかというと場末の診療所といった面持ちの建物で、秘密の手術でも行われていそうな淫靡｛いんび｝な感じさえする。　実際、かおすけはその病院で、火傷の治療の他に秘密の手術を受けた。　この手術こそが「転んでもタダでは起きない男」と世間から一目置かれる男へと、かおすけを作り変えた、秘密の大手術なのだ。　　つづく　　　

火傷の患部は熟れたイチジク色に変色し、イカのメシ詰めのようにﾊﾟﾝﾊﾟﾝに腫れ上がっていた。　完治してもケロイド状のひきつりが残るだろう。　さらに男性として、ちゃんと機能するかどうかが心配された。　だが、かおすけは幸運だった。　人より少しばかり余分に○ンコを包む、皮……。　日頃は疎まれ、無用の長物と蔑まれる○ンコの皮が、致命的な火傷から○ンコ本体を守ったのだ。　幸運はさらに続く。　その○ンコの皮を見た医者が、「もう切ってしまおう」と余った皮を切ってくれたのだった。　期せずして行われた包茎手術……。　同じ悩みを持った「カムリ族」は、嫉妬と羨望の気持ちを込めてこう言った。　『ケロチン（ケロイド○ンコ）かおすけは、転んでもタダでは起きない。犬のウンコでも掴んで起きる』と……。　　つづく　　　

足の裏からムズムズと這い上がる不安が、手術を終え、ベットに横たわるかおすけに絡みつく。　――本当に完治するのだろうか……　男としての機能はどうなるのだろう……　このまま、童貞として一生を過ごすなんて、あまりにも悲しすぎる……　そう考えるとかおすけは、居ても立ってもいられなくなった。　本当に男性機能が無事であれば、卑わいな妄想を巡らせることで、きっと確かめられる。　自慰行為はかおすけの日課でもあるから、妄想による○ンコの反応が、どの程度であるかを知っているた。　だが気をつけなければならない。　完全勃起は非常に危険だ。　間違いなく、手術の傷口を開いてしまうからだ。　「半勃起で止める」　これが最終的にかおすけが下した、憂鬱を解決する方法だった。　　つづく

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